なでがたな学び

大学生の、読書やプログラミングを中心とした雑記です。

『ゲーデル、エッシャー、バッハ』をより理解するための事前準備

…ついに、ついに読みました、ホフスタッター著の『ゲーデルエッシャー、バッハ』。数学ガールを記した結城浩先生が「何度も繰り返し読んでいる本」として挙げており*1ピューリッツァー賞(なにやらすごそうな賞)も受賞している本書。大学にはいってからはや4年、これまでぼちぼちと本を読んできましたが、これだけ(物理的にも内容的にも)厚く重い本を読んだのははじめてでした。かなり難しく、まだまだ理解できてない部分はあるものの、一方で「わりと読めたのでは!」とかなんとか思えたりもしています。本書『ゲーデルエッシャー、バッハ』(以下「GEB」と略します)を読む前に、たまたまそうなったものも含め、何冊か事前準備としての読書を積んできたのが功をそうしたのかなと感じます。


ということでここでは、事前に読んでよかったなという本だったり、逆にこういうところを勉強していればもっと理解できた&楽しめたのではという本を紹介していきます。


GEBの紹介から

と、その前にまず肝心の本の内容をちょっと紹介します。

タイトルにもあるように、本書は不完全性定理を提唱した数学家ゲーデル、騙し絵で有名な画家エッシャー、音楽の父バッハ、彼ら3人に共通する《不思議の環》現象を見出していく、そういった内容になっています。この《不思議の環》とは、「ある階層システムの段階を上へ(あるいは下へ)移動することによって意外にも出発点に帰っている」(P. 26)という不思議な現象のことを指します。AからBが生み出され、BからAが生み出される。そのように高次元のレイヤーと低次元のレイヤーが混ざり、階層がもつれ、あたかも奇跡のようなもの(例えば生命など)が生まれる。こうしたもののことです。

本書はさらに、この現象を分子生物学にも見出したり、人工知能の議論にも応用したりと、縦横無尽に話を展開していきます。それだけでなく、途中で禅の思想が出たり、ルイス・キャロルの物語をモチーフとした対話編が差し込まれていたりと、本の中で出てくる話の幅がもっのすごく広い。読み応えしかありません。


読んでよかった本


この本はGEBを読むきっかけともなった結城浩先生による、不完全性定理にかんする本です。最初から不完全性定理について触れるのではなく、「ペアノの公理」や「カントール対角線論法」など、定理に用いられている重要な論証をひとつずつ学んでいく形式になっています。不完全性定理に関するはじめての本だったこともあり、正直終盤の議論についていくのが難しくはありましたが、それでも説明は抜群にわかりやすく、定理に挑むためのいい事前準備になりました。はじめて不完全性定理にふれる人や、数学が苦手だと感じている人は、ぜひ読んでみてください。


これも結城浩先生が「大学生の数学を勉強する土台として」と、強くおすすめされていた参考書だったため、読んでみました。不完全性定理自体は他の数学分野に比べて、事前に必要とされる知識が少なく、だからこそプロ・アマチュア問わずいろんな人を魅了しています。といっても、数理論理学のそもそもの基礎を知っていなければ不完全性定理についていくのが難しいのも事実で(というか知っててもわからない部分ばかり)、量化子など、数理論理学特有の文字やその使い方を知っていないと、呪文にしかみえません。この本は、その数理論理学の基礎となる部分を丁寧に書いてくれているので、これを読んでおくと自信をもって読み進めていくことができます。


ゲーデル不完全性定理を足掛かりとしつつ、チューリングの停止問題にも踏み込んでいく、自動定理証明にまつわる議論がされています(以前軽い感想を書きました*2)。GEB後半でも、チューリングやタルスキなど、コンピュータプログラムに関する話題が多く出てきます。そうした時に、この本に書いてあるゲーデル以後の数学史を少し知っておくと、読みやすくなるのではないかなと思います。(ただ、なんとも難しく、正直あまり理解できておりません…。もしかしたらこちらを後にしたほうがいいかもしれません)


「人間の意識はいつ生まれるのか?」という問いに対して、《統合情報理論》という仮説をぶつけていくという本です。統合情報理論とは、人間の意識は、各器官から得られる豊富な情報量とその相互作用による複雑性、そしてそれらの統合のバランスが高度になっているために生まれるという理論のこと。GEBでも、ニューロンと意識という、低次元ー高次元の関係性を、《不思議の環》現象と対応させながら考えていきます。この際に、脳の構造について、ちょっとでも知識があると該当箇所が読みやすくなります。ただ、脳の構造について説明してくれている本ならより詳しいものが他にあったのではないかなと思います。GEBと関係なくただただ面白かったのと、ぼくが読んだ脳科学関係の本がこれしかなかったので挙げていますが、この本で事前準備を行う必要性は低そうです。


コンピュータの構造を、0と1のバイナリーなど根本にある部分から説明してくれる本で、少し古めの本ではありますがかなり読みやすいです。コンピュータの構造は、低次元ー高次元までの階層関係が抽象化されており、各レイヤーがあたかも独立しているかのように動いています。例えば、WindowsのパソコンでもMacでも動くプログラムがある、みたいなことです。GEBでは、この独立的な階層関係に焦点が当てられ、脳の構造との比較などがなされます。この『思考する機械 コンピュータ』でも、まさにそのことをコンピュータの本質として挙げているので、なおGEBの事前準備として活かせるのではないかなと思います。


簡単な紹介でも述べましたが、GEBでは分子生物学(遺伝子とかタンパク質とか)の話題が出てきます。基礎的な部分は説明してくれているものの、少しでも知っておくと理解しやすいです。特に、「タンパク質の立体特異性による三次元構造化」にまつわる議論などは、この『偶然と必然』という本に詳しいです。著者も述べているように、この本から影響を受けたとみられる箇所がいくつかあります。(一度まとめと感想を投稿したので、より詳しくはそちらをどうぞ*3


初学者向けの人工知能に関する本です。人工知能のブームが大きく3回に分かれているのですが、各タイミングでどのような研究が進み、何につまづいたのか、などを時系列に沿って詳しく説明してくれています。GEBは序盤〜後半直前まで、主なトピックはゲーデル不完全性定理なのですが、終盤はもっぱら人工知能に関する話題になっていきます。


事前に学んでおきたかったもの

バッハの音楽

本書のメインの一人であるにもかかわらず、ぼくはまったく音楽の素養がないため理解できない部分や想像できない部分がかなりありました。特にバッハの曲をモチーフにした対話編などが多いのですが、それらのすごさや面白さがあまりわからず、まさに本書の3分の1だけ楽しめなかったように感じます。


禅の思想

本書中間あたりで、禅問答が大きく取り上げられます。そこで禅の思想と、不完全性定理とか結びつけられるのですが、禅の思想はそれ自体難解なものなのであまり理解できない部分がありました。鈴木大拙氏の本を読んだときにでも、禅の思想にふれておけばよかったなぁと少し後悔しています(一冊読んでおわりになってしまっていたので)。


数学史

本書では、ゲーデルの不完全定理など数学にまつわる議論が多くを占めています。これまで数学という学問に、特に数学の歴史などにはほとんど触れてこなかったのではじめて聞く名前がかなり多かったです。不完全性定理も、その数学の歴史文脈上に位置付けることでさらに理解しやすくなると感じました。


人工知能に関する議論

先ほど一冊あげたものの、まだまだ知らないことがかなりあるなと痛感しました。さらには、GEBが発売されてから40年以上たった今、もっと進められた議論を踏まえた上で、GEBでの人工知能に関する主張を捉え直したいです。


あとがき

本書の特徴は、各テーマ間の同型対応にあると感じます。全然関係なさそうな独立した学問がつながり、さらには音楽とも、絵画ともつながる。この本を読み進めていくと、ミステリー小説の伏線が回収されていくような、そんな爽快感もかんじられます。各テーマに関する知識を事前に準備しておけば、そのつながりをより楽しめるのではないかなと感じます。ぼく自身、より『ゲーデルエッシャー、バッハ』を楽しめるようにこれからの読書も進めていきたいです。